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川島雄三 『洲崎パラダイス 赤信号』1956年 [映画]

仲間の隆庵氏に「これ見なきゃだめでしょ、そりゃ」と言われて速攻レンタルした川島雄三の傑作。


洲崎パラダイス 赤信号


いや~びびった。
ややちびった。

これを見る前に成瀬巳喜男と川島雄三が二人で撮った『夜の流れ』を見て、それもよかったんだけれども、やはり二人の監督が撮ったものより一人でやったこちらが数段素晴らしい。

まず映像が完璧。かっこよすぎる。さすがは趣味はカメラ、しかもミノックスなどというオタクなカメラを愛好していただけのことはある。
新珠美千代がふだんの上品さとはうってかわったフェロモンだだ流しのエロティシズムを演じきっている。
飲み屋の女将を演じる轟夕起子の渋い演技も見逃せないし、芦川いづみのかわいさも悶絶ものである。
要するに脚本、映像、俳優、すべてが完璧に決まった傑作である。まあ若干音楽が弱いかな。ダメではないけれども。

内容としては例によって「ダメ男と美女で映画は成立する」という黄金のルールを守っているので、特に言うことはない。冒頭とエンディングがループするような演出も見事だし、ラストのクレーン撮影も見事だ。

舞台が遊郭の近くであるが、決してカメラは遊郭内部に入ってゆかない。

遊郭という世間からすれば「はずれた」場所からさえもはずれた場所にある飲み屋が主な舞台である。そこでいろんな意味で世間を踏み外した男女の理屈を超えた関係を丹念に描く川島雄三はまさに天才と言わねばならない。

絶望的なんだけれども、どこかに希望を残す、そういう映画が好きである。

ゴダールに全然負けていませんが何か?
コメント(11) 
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コメント 11

隆庵

観たのね。私の中では川島雄三監督の最高傑作は『幕末太陽伝』ではなく、この『洲崎パラダイス」でアリマス。人物がみんなビミョーにズレておかしいのですよね。このビミョーな感覚ちうのはなかなか演出できないと思うのです。川島監督は自分の肉体に強烈なコンプレックスがあったわけですが(病気のため、自分の寿命は長くないと思っていた)、それが画ににじみ出て切ない感じがあるのです。
 しかし新珠ミッチーのフェロモンは凄いでしょ。我々世代は『細腕繁盛記』でのミッチーしか知らんわけですが、此の頃のフェロモンは異常です。それから芦川いづみの可憐さ。川島監督はこの二人をよく使ったわけですが、ストーリーが退屈でもこの二人の対比だけで見せてゆくのはスゲエです。
『洲崎…』よりは落ちると思いますが、『風船』を観て下さい。ストーリーや構成は凡庸なのですが、ある意味『洲崎…』よりもミッチーのフェロモン全開です。それから芦川いづみが幼い頃に小児麻痺にかかって身体の不自由なお嬢さんの役をやっているのですが、この真っ白な純粋さは異常な演技でアリマス。あと、三橋達也の非人情な人間のクズ的演技も必見でアリマス。森雅之も出てますが、まともな役だけに霞んでます。
 撮影(美術)のことでいうなら、あの橋の向こうでチャカチャカ動いている人物たちは子どもだそうです。子どもに大人の服着せて奥行きを出しています。
 ちなみに…私の映画批評の師でもあるT先生(故人)は川島監督とよく飲んだ(滅茶苦茶に)そうですが、映画もいいけど人間も「ほんまにええやつやった」そうですよ。あと十年長生きしていたら、間違いなくもっとスゲエ作品を残したと思います。
 ほんまにゴダールにもまけてまへん。
 ああそうそう。追伸やけど、大谷直子のアレ、『肉弾』やなくて『吶喊(とっかん)』やったと思います。訂正します。
 ではまた。 

by 隆庵 (2008-09-22 11:25) 

jazzy

隆庵さん

まいど。
見た。
びびった。
ぼくはやっぱりショットの絵画的な強さというか、絵の決まり具合というか、そこがやはりびびるのよね。
それはもう監督の資質というかなんというか。
びしっと決められる人とそうでない人と、それはもう努力ではどうにもならんのではないか、とも思う。

ちなみにぼくが三橋達也ならソッコーで芦川いづみに行ってしまうけどもね~。
by jazzy (2008-09-22 20:00) 

隆庵

監督の才能にもよりますが、それとともに当時は撮影所システムが理想的に機能していたと思います。スタッフそれぞれがそれなりのギャラをもらいながら、厳しい徒弟制度を生き抜き、監督のイメージに応える感性を磨いていたのでアリマス。今のように烏合の衆ではありませんでした。特に“名監督の陰に名キャメラマンの存在あり”と申しまして、そのコンビネーションは素晴らしかったのだと思います。とはいえ、優れた監督の映像感覚がないと成立しないのですけどね。
>ちなみにぼくが三橋達也ならソッコーで芦川いづみに行ってしまうけどもね〜。
全く同感。
by 隆庵 (2008-09-24 22:18) 

jazzy

まいど。

>当時は撮影所システムが理想的に機能していたと

なるほど。スタッフの実力が今とは桁違いであったと。そういうこってすな。なんで滅びたんやろなあ。

>名監督の陰に名キャメラマンの存在あり

ですなあ。
でもカメラマンが同じでも監督が変わるとガラっと変わるから、やっぱ監督の比重でかいのとちゃいますやろか。
by jazzy (2008-09-25 23:19) 

隆庵

>なんで滅びたんやろなあ。
儲かり過ぎたんでしょうな。前にも書いたかしらんけど、ある美術監督に聞いた話では、経理部に行くと金庫に入り切らない札束を足で突っ込んで「誰か使ゥてくれえ」なんて言うてたらしいから。黙ってても儲かるから頭使わんようになって、入らんコヤつくったり、プロ野球チームなんぞをつくったりして、才能を見い出そうとか育てようちうようなことをせんかった。
>やっぱ監督の比重でかいのとちゃいますやろか。
そらせやね。けど宮川一夫先生は凄かった。二階建てのセットを真っ二つに割って、キャメラを二階の窓から外に出して地べたまでクレーンで下ろしてワンカットです。醤油フィルタや銀残しも宮川先生の発案でした。
度胸も満点で、助手時代に「忠臣蔵」を撮っていて、松の廊下のシーンで役者が何度もNG出すのにゴウを煮やして、チェンジしたばかりのニューフィルムをマガジンから取り出して、松の廊下の端から端までコロコロと転がすと役者に「あんたこんだけのフィルムを無駄にしてんのやで。あんじょうやってや」……スゲエ。カッコエエ。助手の時代に……。さすがは世界のミヤガワやね。
by 隆庵 (2008-09-25 23:58) 

foka

jさん、隆庵さん、こんにちは。

たいへん濃い舞台裏のお話読ませていただいてます。
ぼくも山水館の女将さんだった新珠美千代しか知らないので、
『洲崎パラダイス 赤信号』や『風船』などぜひ機会があれば見たいものです。

芦川いづみといえば、先日こちらであった日活アクション映画特集中
『硝子のジョニー 野獣のように見えて』(1962年)というのに出演していましたよ。

>「あんたこんだけのフィルムを無駄にしてんのやで。・・

こういう職人気質というか、作品に対する気迫にえらい魅力を感じます。
いったいデジタルではどないなるのやろか・・
by foka (2008-09-30 07:20) 

隆庵

fokaさん、こんにちは。
>いったいデジタルではどないなるのやろか・・
日本の場合、TVドラマをビデオで放映し始めた頃から、明らかに映画(人)の質が落ちてきたと思います。デジタルになってもっとひどくなってきました。
映画を志す今の若い人たちは本当に簡単に撮ってます。仲間同士でとても楽しそうに撮ってます。失敗しても撮り直せばいいんですからワンショットに緊張感がないんですね。8ミリの時代だったら「これ失敗したら昼飯ぬかなあかん」ぐらいの緊張感はあったと思いますし、その緊張感が優れたカットを生み出したと思うんです。今はそれが全くない。あと、昔のキャメラマンはまずラボをやったんです。現像所でフィルムの勉強するんです。フィルムの一コマ一コマを眺めて、そこからカットのつながりとか色とか学んだといいます。宮川先生は白黒の中にもいくつもの色があると言われて、作品にあわせて繊細な美しさを表現されていました。映画には基礎なんてないと言う人もありますが、こうした基礎をわかっていない人のつくった映画はどこか浮ついていて、好みではありませんね。
by 隆庵 (2008-09-30 23:32) 

jazzy

>宮川先生は白黒の中にもいくつもの色があると言われて、

こういうのはもう求めても難しいので逆にデジタルの利便性を最大限に駆使した作品が出てきてもよさそうですがね。
CGとかそういう方向でなくてさ。
音楽でもデジタルになって簡単に編集できちゃうんで、それはそれで悪い面もあればいい面もあろうかと思うけれども。

最終的には才能ということになるのかな。

by jazzy (2008-10-01 12:32) 

foka

隆庵さん、jさん、まいどです。
ぼくはフィルム映画から伝わる不思議な重みが好きです。
食欲の秋・・ なんか美味しいもん食べてまっか?
by foka (2008-10-02 06:08) 

隆庵

>最終的には才能ということになるのかな。
それがない者は人造才能、つまり努力するしかないのですな(泣)。
>不思議な重みが好きです。
ありますねえ……感覚的に言うとぼくは何か遠い感じが好きです。デジタルってすぐ隣でつくってる感がありますが、フィルムってどっか遠い世界でつくってる感があって、それが好きなのです。
by 隆庵 (2008-10-02 09:17) 

jazzy

ぼくは映画がフィルムでもデジタルでもかまわない。
携帯動画で撮影したムービーはまるで8ミリのような質感で好きだし。
映画の歴史は常に新しいテクノロジーに直面してきた歴史ですよね。まず無声映画があって、やがてトーキーになって、モノクロがカラーになって、それでデジタルになって。

しかしですね。テクノロジーの変遷と映画の質は無関係ではないかという思いがして仕方が無いのよね。だってグリフィスもチャップリンも偉大だけれど、小津や溝口も偉大だし、カラーを撮ったフェリーニもゴダールも偉大でないかい?

バッハもモーツァルトも凄いけれども、プリンスも負けてないわけですよ。ビートルズは神ですが何か?的な。

ということで、いたずらにフィルムを称揚するのもどうかと思うわけだけれども、フィルム映画のほうが好きだし、写真もフィルムが好きだけれども、ま、テクノロジーはどーでもよろしいと思うわたしです。
by jazzy (2008-10-03 00:03) 

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